無くすのは「市民が議論する仕組み」コロナ禍で強行された「一元化条例」の問題点

奈良女子大学 教授
中山 徹 氏

大阪市の権限を府に移管する「広域行政一元化条例」が府市の議会で可決されました。しかし、昨年の住民投票で「大阪市は存続すべき」という民意が示されたばかりであり、コロナ禍での成立強行に対して問題点を指摘する声もあります。そこで都市計画学を専門とする奈良女子大学の中山徹氏に条例の問題点などについてお話を伺いました。

―先日広域行政一元化条例が大阪府・市の議会で可決されましたが、どういったものなのでしょうか。

「広域行政一元化条例」とは、政令指定都市の大阪市が持っている都市計画などに関する権限の一部を大阪府に移管する条例のことです。そして、広域行政を府市一体で進めるために「副首都推進本部会議」を設置し、知事が本部長、大阪市長が副本部長としています。

これは2度にわたる住民投票で否決された「大阪都構想」の実質化を図ろうとするものであり、都構想の縮小版と言えます。

―条例はコロナ禍にも関わらず僅かな審議のみで強行されました。なぜ、成立が急がれたのでしょうか。

推進する維新の会にとって「大阪都構想」は党の存在意義と言える政策でした。その政策が2度の住民投票で否決されたことは大きな打撃となりました。これにより、改革政党としてのイメージが維持できないまま今年の総選挙に臨むことに焦りがあったのでしょう。当面、都構想に代わるシンボルとして、党内の引き締めと支持層の繋ぎ止めを図るために出されたのが「広域行政一元化条例」だったのだと思われます。

ですが、コロナ対策に注力すべき時に、都構想の住民投票と今回の条例を強行した結果が今の第4波に繋がっていることは指摘しておきたいと思います()。

―都構想と広域行政一元化条例はどういった違いがあるのでしょうか。

都構想は、大阪市を廃止したうえで4つの特別区を設置し、大阪市の持っている広域行政に関する権限・財源を大阪府に移してしまうというものでした。もし成立していれば、広域行政に関わる事業は全て大阪府の判断で進められることになっていました。

その一方で今回の条例では、大阪市から府への権限移管はごく一部に留まります。また、副首都推進本部会議で広域行政に関する方向性や府市の役割分担について協議は行いますが、事業を行うにあたって必要な予算は大阪府議会・市会で議論を行う必要があります。この点は都構想との大きな違いです。

そして、もう一つの大きな違いが都構想は一度決まってしまうと後戻りできないことです。都構想が成立し、政令指定都市の大阪市が1度消滅してしまっていれば、元の大阪市に戻すことはできませんでした。

一方で、今回はあくまで条例なので「廃止すべきである」と判断するような情勢になれば、比較的容易に廃止し、元に戻すことが可能です。

―では、条例の問題点は何でしょうか。

大きく2点を強調したいと思います。

1点目が、民主主義の否定ということです。2度にわたる住民投票により「政令市の大阪市を残したい」という市民の意向は明確に示されました。にも関わらず、住民投票が終わって僅か数日後に、大阪市の権限・財源を移管する条例案を出し、コロナ禍の中で成立を強行したこと自体が、市民の決断を踏みにじるものであり、許されません。

2点目が今回の条例と「二重行政解消」の建前とは何の関係もないことです。条例の推進派は「住民投票で半数近くの市民は二重行政の解消を求めた」ために、条例が必要だと説明しています。しかし、条例と二重行政とは全く関係がありません。なぜなら、条例ではこれまで大阪市が市域内に対して持っていた都市計画の権限を、府に移管するだけであり、そこに「二重」はないからです。

逆に問題になってくるのが、副首都推進本部会議による方針決定のやり方です。経済政策の方針など重要なテーマが、議会を通すことなく少数の副首都推進本部会議で決定されることになります。その結果、カジノ誘致などの大規模開発の問題に対して市民の意見が反映されないまま方針が決定されていくのです。

つまり、無くなるのは「二重行政」ではなく「市民・府民が議論する仕組み」です。「議論を軽視する」ことが今回の条例の本質に他なりません。  

条例と二重行政解消は別問題「副首都会議」で軽視される議会

―条例が通ってしまいましたが、できることはないのでしょうか。

今回の条例の中身についてはほとんど報道されていません。先ほど挙げた問題点について、前回の住民投票の賛否に関わらず一人でも多くの府民に、まずは知っていただきたいです。

また、条例は通りましたが運用にあたっては規約等を決めていく必要があります。今後、府議会・市会で議論していきますので、働きかける余地は残っています。さらに、今年は総選挙が控えていますし、2023年には知事選・市長選もあります。その結果次第で元に戻すことも可能です。

前回の住民投票で奮闘した市民の中には脱力感を持たれている方もいますが、その奮闘があったからこそ条例に留めたのであり、決して悲観する必要はありません。ぜひ確信を持っていただきたいと思います。


ページ上部へ戻る