2023年 大阪府政への保険医の重点要求

要求提示にあたって

大阪府保険医協会理事会は1月26日、大阪府知事選挙に立候補を予定しているたつみコータロー氏の推薦を決定し、政策協定を締結しました。政策協定にあたり、新型コロナウイルス感染症対策や医療・介護における府民負担の軽減など府政の転換を求める「保険医の重点要求」を示しています。要望項目は以下の通りです。

新型コロナ感染症対策の抜本的な見直し トップダウン型の府政運営からの転換を
2020年から始まった新型コロナウイルス感染症の拡大により、大阪府では累計265万6千人の感染者、7443人の死亡者を出し、人口100万人あたりの死者数は全国一多い状況(いずれも23年1月11日時点)となっています。

大阪では早い段階から3次救急の受け入れ制限がおき、20年秋からは高齢者の感染者が増え、医療機関や高齢者施設でのクラスターが深刻な状況となりました。21年3~6月の「第4波」では“医療崩壊”の状況に陥り、治療を受けられないまま19人の方が自宅で死亡する痛ましい結果となりました。現在も医療につながりにくい深刻な状況が続いています。

当会では、感染拡大当初から大阪府に対し、検査体制の拡充(具体的には、公立の検査センターの多数設置、医療機関・高齢者施設等での定期検査の実施など)や公立の発熱外来センターの設置、専門入院施設の開設を要求してきましたが、一部実行に移されたものの内容は極めて不十分であり、感染拡大の抑止や医療提供体制拡充につながる効果は得られませんでした。

当会は、こうした事態を引き起こした大きな要因は、国が進める急性期病床の削減(地域医療構想)に加えて、少なすぎる保健所・保健師数にあると考えています。2008年の橋下知事以降、維新府政の下で府職員の削減が続けられ、保健所も全体の職員数が少ないことで、もともと少ない保健師の業務負担が過大となっています。奈良県立医科大学の調査でも、人口当たりの保健師数とコロナの罹患率に相関があることが明らかになりました。吉村府政は外部委託で乗り切ろうとしていますが、保健所との連携に課題もあり、経験の蓄積もされずかえって現場の負担になっているとの声が上がっています。

もう一つの要因は、現場の意見を聞くことなく吉村知事がトップダウンで決める府政運営にあります。今後の対策・方針を記者会見でいきなり発表し、医療現場はおろか保健所でさえ事前に説明がなく幾度となく大混乱に陥りました。これにより余計な負担が現場にかかったことは、吉村知事の重大な責任です。

府民の声を受け止め 住民のいのちと暮らし最優先の府政の実現を

新型コロナ感染症が府民の暮らしを圧迫しているなか、国はこの間、後期高齢者の医療費負担を2倍化し、現在更なる負担を強いる施策を進めようとしています。こうした国民負担を増やす施策に対して、大阪府は府民生活を守る「防波堤」の役割を果たすどころか、府民の命と健康を脅かす政治を進めています。その最たるものがコロナ禍で高齢者の命と健康が脅かされているなかで、経過措置の延長も制度の見直しも議論すらせず、老人医療費助成制度の廃止を断行したことです。また国民健康保険において統一保険料の強行は、市町村国保の保険料の高騰を招き、府内市町村の減免制度などにも大きな影響を与えています。なぜ、大阪府は府民の命と健康を守るための政治を疎かにするのか。私たちは毎年行う大阪府との交渉(応接面談)でも毎回その姿勢を糺しますが、私たち医療現場からの声を受け止める姿勢はありませんでした。

この最大の要因は、住民のいのちと暮らしではなく、「大阪都」構想の実現とカジノIR・万博誘致を優先させる姿勢にあります。吉村知事と松井大阪市長は、“医療崩壊”への危惧が高まっていた20年11月に「大阪都」構想の住民投票を強行しました。15年に引き続き大阪市の廃止・分割は住民の反対多数で否決されましたが、21年2月の議会で「広域行政一元化」条例を可決し、大阪市存続を決めた住民投票の結果を無視しました。また、松井市長は「バーチャル都構想」といって市独自のコロナ対策をせず、府に丸投げを続けています。

その後も万博を呼び水としたカジノ・IR誘致に力を注いでおり、コロナ対策は二の次となっていると指摘せざるを得ません。実際に、府は万博などを「特定の重要課題」とし、必要な職員数を捻出するために、他部局の行政職員40人の削減目標を掲げています。昨年4月に各保健所に1名ずつ配置した行政職員についても、削減の対象とする通知を出しており、その姿勢を鮮明にしています。また、維新の看板政策では2度目の住民投票を強行したにもかかわらず、府民が求めたカジノ誘致の賛否を問う住民投票は、法定数を上回る21万人を超える直接請求署名を無視して門前払いしました。

「大阪都」構想、万博誘致に代表されるように、吉村知事は大阪市を中心とした大型開発のみに執着し、大阪市やその他の衛星都市に住む府民の暮らしに寄り添う姿勢は全く見られません。大阪府内の市町村全体が輝く施策に取り組む本来の広域行政の長が今、求められています。19年10月の消費増税、新型コロナ感染拡大による経済への影響、21年からの深刻な物価高騰と、府民生活はより一層苦しくなっています。府民のいのちとくらしを最優先にし、具体的な施策を実行することが大阪府知事に求められていることは明白です。

これらの視点に立って、以下に我々の要望を提示します。

要求項目

〔1〕新型コロナウイルス、新興感染症対策
  1. 保健師や保健所職員を拡充し、保健所体制・公衆衛生を強化すること。
  2. 患者が安心して療養できるよう、検査体制や医療提供体制を強化すること。
  3. 保健所や医療機関、各種施設、市町村などの現場の声を聞いて実態に即した措置を講ずること。
〔2〕医療提供体制
  1. 地域医療構想を見直し、急性期病床を維持・拡充すること。
  2. 第3次救急への補助金を増額し、救急医療体制の確保に向けての府の施策を充実すること。
  3. 在宅医療を担う医療機関の人員確保、ネットワーク構築などに関する補助金など支援施策を拡充すること。
  4. 災害・新興感染症に対応する(研修施設も兼ねた)医療施設を設置すること。
  5. 感染拡大防止にかかる対策費や物価高騰に対する医療機関への補助を拡充すること。
  6. 認知症・高齢の患者の急変時の病床確保を積極的に進め受け入れ態勢を充実させること。また、受け入れ病院への独自の補助金などの支援施策を拡充すること。
〔3〕医療・介護における府民負担の軽減
  1. 医療費助成制度の拡充
    1. 乳幼児医療費助成制度の対象年齢の拡大、所得制限の撤廃、一部自己負担の無料化を実施すること。
    2. ひとり親家庭医療費助成制度の所得制限の撤廃、一部自己負担無料化を実施すること。
    3. 重度障がい者医療費助成制度を見直し、難病患者・中軽度の障がい者にも対象を拡大すること。一部自己負担の無料化を実施すること。
    4. 老人医療費助成制度を再制度化すること。
    5. 妊産婦医療費助成制度を創設すること。
    6. 75歳以上2割化対象者への助成制度を創設すること。
  2. 無料低額診療の拡大、調剤薬局も対象とすること
  3. 国民健康保険料の統一化をやめ国保料を引き下げること。府下市町村の減免制度の維持を認めること。
  4. 国保加入者の生活実態を把握するため、加入者実態調査を行うこと。
  5. 介護保険の保険料・利用料の軽減措置のために、府として市町村に財政援助すること。
  6. 全ての世代の軽・中等度の難聴者を対象とした補聴器購入助成制度を創設すること。
  7. 特定健診・特定保健指導の市町村の実施状況を踏まえ、府下で格差がある付加健診についても大阪府として助成するなど、格差解消に努めること。
  8. 生活困窮者が最低限度の生活を保障されるように、生活保護水準以下の府民の捕捉率を引き上げること。また、行き過ぎた指導等を是正すること。
〔4〕その他
  1. カジノを中心とする統合型リゾート(IR)の誘致を撤回すること。
  2. 広域行政一元化の方針を撤回すること。府下の全ての自治体が輝けるような施策を講じること。
  3. 学校の統廃合計画を見直し、教員不足を解消すること。
〔5〕府として国に働きかけを
  1. 医療費窓口負担を大幅に軽減すること。保険料負担を軽減すること。
  2. 地域医療を守るために診療報酬を引き上げ、不合理を是正すること。
  3. 健康保険証の廃止方針を撤回すること。医療機関に対するオンライン資格確認の導入義務化を撤回すること。

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