【最終回】ベーシックインカムは私たち世代の皆保険

同志社大学経済学部教授
Basic Income Earth Network理事
山森 亮

コロナ禍でベーシックインカムが着目されている理由には短期的な緊急所得保証の必要性と、長期的な社会の方向性の転換の必要性との二つがあることを前回紹介しました。

後者において本格的にベーシックインカムを導入するとなると、財源が問題視されがちです。実際仮に1人月10万円だとしてもベーシックインカムだけで現在の予算を超えてしまいます。税収で賄うとすれば、税制度の抜本的な改革が不可避です。

戦後数十年かけて皆保険制度を導入・成熟させていったのと同じくらいの広範な合意と数十年にわたる期間が、ベーシックインカムの導入には必要でしょう。

社会保障制度の削減に利用されないよう注意

懸念すべき点として、現在日本では「ベーシックインカムの導入はそれ以外の社会保障の全廃とセット」だという言説が広まっていることがあります。しかし国際的には、ベーシックインカムによって置き換えられるのは、それが直接に代替しうるものだという理解が標準的です。

たとえばイギリスでは前回ご紹介したNHS(国民医療サービス)という制度がありますが、ベーシックインカムと引き換えにNHSを廃止するという議論はほとんどありません。

コロナ禍のイギリスで「ベーシックインカムは私たちの世代のNHSだ」 というスローガンがいくつかのメディアに現れましたが、この言葉に象徴されるように、既存の社会保障や公的な社会サービスを土台に、そこに付け加えられるものとしてベーシックインカムは議論されています。

今の日本の言説状況を考えた時には、ベーシックインカムの議論が既存の社会保障制度の削減に利用されないよう留意が必要でしょう。

ベーシックインカムと皆保険制度は車の両輪

この連載のタイトル「ベーシックインカムは私たちの世代の皆保険」には二つの意味が込められています。

一つは、皆保険制度を含む公的な社会的サービスの充実とベーシックインカムの考え方に基づいた社会政策の充実は車の両輪であるということ。もう一つは、ベーシックインカムの本格的な導入には、皆保険制度の導入と同じくらいの、社会における広範な同意と制度成熟までの時間が必要だということです。

日本の皆保険制度は、イギリスのNHSのように無料ではありませんので、困窮する人びとが増えることで、「皆」保険は名ばかりになってしまいます。有効な所得保障制度とセットで初めて本当の意味で「皆」保険となります。

では、どのような所得保障制度が良いのでしょうか。申請者のなかから「真に」困窮している人を政府が選別して給付する、生活保護的な仕組みのみに頼るのが良いのでしょうか。

一つには、生活保護の捕捉率が2割前後だという現実があります。もう一つ、日本は医療については、アメリカのメディケイドのような困窮者層だけを対象にした選別的な仕組みではなく、普遍的な「皆」保険制度をとっています。

選別的な仕組みの持つ問題点、普遍的な仕組みの持つ利点、本紙読者の皆さんはよくわかっていらっしゃるのではないかと思います。所得保障についても同じか、いや違うのか――。皆さんはどのようにお考えでしょうか。


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