④ベーシックインカムは私たち世代の皆保険

同志社大学経済学部教授
Basic Income Earth Network理事
山森 亮

前回は、日本の所得保障のセーフティーネットには大きな穴が空いていて、生活保護基準以下の収入での生活を余儀なくされている方がいること、そうした人たちの中には、医療にかかれなくなってしまう人もいて、「皆保険」の理念の空洞化を招きかねないこと、また社会的に広く認知されていない病気や障害に苦しむ人もいること、などについて触れました。

健康とベーシックインカムや保証所得との関係について、今回は、これまで行われてきたベーシックインカムや保証所得の給付実験の結果をご紹介します。

1970年代にアメリカ合衆国とカナダで、2000年代にナミビア、ブラジル、2010年代に入ってインド、カナダ、フィンランドなどで実験が行われています。

フィンランドでは2017年から2年間、失業手当を受給している約20万人からランダムに選ばれた2000人を対象に失業手当の代わりに、それとほぼ同額の毎月560ユーロを給付しました。

失業手当の場合には求職活動をしていること、収入があった場合の報告や、手当減額などの諸条件がありますが、それがなくなる訳です。

起業して大金を稼ごうが、逆にまったく引きこもってしまおうが、求職活動の代わりに身内の介護や地域のボランティア活動に時間を割いたり、病気の治療に専念したりしても、実験中の2年間は給付が継続するというものでした。

その報告書が2020年5月に出ています。この実験では実験終了直前に、被験者に電話でインタビューをしています。そのうち健康に関連する項目の結果は図1の通りです。中、B1グループとはベーシックインカムの受給を受けていた人、コントロールグループはそれ以外の失業手当の受給者です。健康状態についての自己評価が改善していることがみてとれるかと思います。

ほぼ同じ時期にカナダ・オンタリオ州で行われた保証所得の実験でも、同様の結果が出ています。図2にありますように、インタビューに答えた実験参加者のうち37.8%が健康状態が「とても良くなった」と回答し、「少し良くなった」と回答した41.6%と合わせると実に79.4%が健康状態が改善したことを報告しています。

精神的健康については実に53.1%が「とても良くなった」と回答し、「少し良くなった」と回答した29.7%と合わせると82.8%にのぼります。

実験に参加したある若い女性は、「実験前は、菜食主義の自分に適した食糧を買うのに十分なお金がなく、また鬱を抱えていて、体重を落としてしまっていた」と言っていました。実験が始まって、「もう一度笑ったり幸せを感じたりすることができるようになった」「自分に自信が持てるようになった」と回答しています。

以上はいずれも被験者自身の主観的な評価ですが、客観的な指標でも健康が改善したことを示す事例もあります。1970年代にカナダ・マニトバ州ドーフィンで行われた保証所得実験では、その街の低所得者の方を中心に人口の30%が参加しました。その結果、全国平均に比べてかなり高かった人口に占める入院者の割合が、全国平均を下回る水準まで減りました。精神科での入院率でも同様の結果となりました。

このようにベーシックインカムや類似の保証所得などの政策によって所得保障がしっかり行われるようになることは、医療や人々の健康とも無縁ではないのです。


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