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③ベーシックインカムは私たち世代の皆保険
同志社大学経済学部教授
Basic Income Earth Network理事
山森 亮
前回まで、既存の所得保障の仕組みに伴う様々な条件のために、救われない人々が出てしまうこと。その問題を解決するために保証所得やベーシックインカムが提唱されたこと、後者は「すべての人に、個人単位で、資力調査や労働要件を課さずに無条件で定期的に給付されるお金」であり、性差別的な福祉制度の運用に苦しむ女性たちによって主張されたことを概観してきました。
これらは過去の遠い国だけではなく、今ここにいる私たちの直面している問題でもあります。生活保護基準以下で生活している人のうち、実際に保護を受給できている人は、2割前後に過ぎません(表)。失業している人のうち、失業手当を受け取れている人も、3割を切っています。雇用保険の加入率自体は正社員で9割以上ありますが、失業しやすい立場の人ほど雇用保険に加入できていない現実が見えてきます。
また「大阪保険医新聞」の読者の方は、医療現場で働かれている方が多いと思います。健康保険の保険料を支払えず、保険証のない患者さんに遭遇されたり、あるいは保険料は何とか支払っていても、自己負担分が捻出できず、必要な受診を手控えてしまう患者さんに出会われたりされているのではないでしょうか(私自身も、収入の乏しい生活をしていた時代に、断続的に通っていたお医者さんが事情を察して、医療ソーシャルワーカーさんに繋いで下さり、保険料の減免申請などについて教えて頂いたことがあります。お世話になった皆さん、お元気かなぁ)。
実際、国民健康保険の保険料を支払えていない世帯は2割弱にのぼるとも言われています。皆保険制度は、先輩たちの世代が達成された優れた制度だと思いますが、所得保障制度に穴があることによって、皆保険の「皆」の部分が怪しくなってきてしまっています。皆保険を守るためにも、所得保障の再構築が必要となってきているのです。
医療と所得保障との関連でいうと、障害や難病についての医師の認定によっては、障害年金の受給に道が開けることがあります。しかし、障害や難病があり所得保障が切に必要とされていても、受給できない場合が沢山あります。
これらの既存の制度の穴や谷間に零れ落ちてしまう人が一人でも少なくなるように、既存の制度を改善していくことと、ベーシックインカムのような無条件の仕組みを導入することは、車の両輪のようなものだと思っています。
たとえば難病に苦しんでいる方が、正しく診断して下さる医師に出会えないということもあります。私自身は職場の改装でシックハウス症候群を発症しましたが、高熱・下痢・脱水で入院した病院では急性腸炎としか診断がつきませんでした。
全身の紅斑で通った皮膚科やその後回された大学病院でも原因解明にいたらず、耳鼻の酷い症状で伺った耳鼻科では急性中耳炎といわれたものの、「シックハウス症候群というのは既に対策がされてなくなっている」と言われました。
最終的には専門医による診断に至りましたが、そこにたどり着く前に時間的にも金銭的、精神的にも諦めざるを得なくなる人も多いでしょう。また私自身はかろうじて仕事を続けておりますが、同病で仕事を続けられなくなってしまった方も沢山います。
また、これまでの医学の歴史のなかで、過去には知られていなかった病気が発見されてきました。多くの場合「発見」される前にもその病気に苦しんでいた方がいたことでしょう。同じことは今現在についても言えるのではないでしょうか。所得保障や社会サービスが普遍的で無条件でなければ、こうした人が救済されることは難しいでしょう。