①ベーシックインカムは私たち世代の皆保険

コロナ禍のなか、ベーシックインカム、あるいは保証所得という妖怪が世界を歩き回っています。3月にはブラジルで「緊急市民ベーシックインカム」法が可決。4月には「スペインでベーシックインカム導入」、「ローマ教皇がベーシックインカムに言及」、「アメリカ下院議長が保証所得の必要性に言及」といったニュースがありました。

5月から6月にかけては、コロナ禍とは直接関係ないのですが、2017年から2年間「ベーシックインカム」給付実験を行ったフィンランド政府が実験結果の最終報告書を公表したり、スコットランドで検討されているベーシックインカム実験についての青写真が発表されたりしました。またコロナ禍との関連では、アメリカでいくつかの都市の市長たちが「保証所得を求める市長会」を結成したことがニュースになりました。

7月には、アントニオ・グレーテス国連事務総長がベーシックインカムの必要性を訴え、国連開発計画(UNDP)が緊急ベーシックインカムを訴える報告書を公表しました。8月にはドイツの経済研究所がベーシックインカムの給付実験をすることが報じられています。

ベーシックインカムの定義とは

ベーシックインカムとは、「すべての人に、個人単位で、資力調査や労働要件を課さずに無条件で定期的に給付されるお金」のことです。ここで「個人単位」とは、生活保護のようには世帯単位ではなく、個人に支給されるということを指します。資力調査がないとは、所得や資産によって給付に制限をつけないとうことです。社会政策の専門用語では「普遍的」給付といいますが、日本では今回の特例定額給付金と、2010年から2年間と短命におわった子ども手当が普遍的給付でした。労働要件とは、たとえば生活保護では「稼働能力の活用」が求められたりしますが、そのような条件をつけないということです。

以上は、私が理事をしております国際NGO「ベーシックインカム地球ネットワーク」【Basic Income Earth Network(本部ロンドン)】による定義です。諸般の事情でこの定義には入っていませんが、通常、ベーシックインカムは政府の恣意的な裁量ではなく、個人の権利として考えられています。また公営の住宅や医療・福祉・保育・教育などの他の社会サービスの利用とあわせた場合に、健康で文化的な最低限度の生活を営むことができる金額が想定されていて、その金額以上を「完全ベーシックインカム」、以下のものを「部分ベーシックインカム」と呼びます。

一方、保証所得とはベーシックインカムを含む、もう少し幅の広い概念です。先述の諸条件から、「資力調査なし」という条件を除いたものになります。既存の所得保障制度、保証所得、ベーシックインカムを図示すると上図のようになります。

このベーシックインカム、日本でも注目を集めはじめていますが、不正確な紹介も多いようです。今回含めて5回にわたって、なるべく正確な紹介を心がけていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

(毎月5日号で掲載)

山森やまもり 亮とおる

同志社大学経済学部教授。
Basic Income Earth Network理事。

本記事に関連する著作に『ベーシックインカム入門』、『お金のために働く必要がなくなったら、何をしますか?』(いずれも光文社新書)、『貧困を救うのは、社会保障改革か、ベーシック・インカムか』(人文書院)など。職場の改装でシックハウス症候群を発症し、お医者さまには日頃からお世話になっています。趣味は低山歩き。


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