行政検査に偏らないPCR検査を

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する緊急事態宣言が解除された。感染症に対する緊急事態の発動・解除には、世界的にPCR検査に基づく再生産数「R」(感染者一人が感染させる人数)が指標として使用される。5月4日の専門家会議の提言によると、人口10万人当たりのPCR検査数は、日本は188で、ドイツ3043、韓国1199など他国に比べ少ない。4月7日の緊急事態宣言は、欧州のR値に基づいて発令され、解除は新規感染者数・医療提供体制・検査体制構築を総合的に判断して行われた。

中国や台湾では重症急性呼吸器症候群(SARS)、韓国では中東呼吸器症候群(MERS)による医療機関での感染集団(クラスター)発生事例を教訓に、流行早期にPCRを大量に自動解析し、陽性者を専用施設に隔離する政策が実行された。日本では、1月末に指定伝染病に定められ、保健所に行政検査を依頼し、陽性者は入院隔離が原則になった。地方衛生研究所は行政検査によるPCR検査に忙殺され、医療機関は行政検査を依頼しても、検査の目安を理由に断られ、個人防御具の入手困難もあり、充分なPCR検査が実施できなかった。

PCRは、DNAポリメラーゼを利用した遺伝子解析の基礎技術で、開発者は1994年にノーベル化学賞を受賞している。感染症分野では、結核菌や百日咳菌やHBVやHCVなど病原体を効率的に検出でき、薬剤感受性や病原性の特定等にも活用され、COVID-19に特化した技術ではない。

専門家会議の会見では、PCRが増えない理由として、手作業で検査していること、試薬が入手困難と述べていた。未知の病原体を探るPCR検査は手作業で行われるが、COVID-19のような大量に同一病原体を検査するには、手作業は非効率的で、検体の交差汚染が起こりやすく、感度と特異度も低下する。

ドイツやフランスなど、大量にPCR検査を実施した国では、日本製のPCR 自動処理分析機が使用されていた。機器を開発した当事国の日本では、国内認証の遅れなどから導入されず、主にPCR検査が手作業で行われた。試薬は、国内試薬メーカーが唾液検査用に月200万検体分供給可能と報道され、6月2日に条件付きで認可された。

日本医師会の「COVID-19感染対策におけるPCR検査実態調査と利用推進タスクフォース」が公表した中間報告で「COVID-19と共生していく上で、PCR検査は医療と社会経済を維持するための社会的基盤と認識すべきである」と提言し、PCR検査が「進まなかった最大の理由」は「全く財源が投入されないため」とし「地方自治体を始め個々の医療機関、企業の自主努力にゆだねられて来た」と述べている。

大阪府保険医協会の調査で、COVID-19のため、受診控えが起こり、医療機関で多大な収益悪化が判明した。令和2年度第2次補正予算で、地域外来・検査センターの設置と行政検査としてPCR・抗原検査の実施に366億円、PCR試薬と抗原キットの確保に179億円計上されているが、個々の医療機関や企業への予算計上はない。第2波、第3波の襲来に備え、政府は、行政検査に偏倚しないPCR検査にも財源と人材の投入が必要と考える。


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