無給医問題について 国と大学の責任を問う

マスコミによって大学病院における無給医の問題が報じられ、大学に対していびつな労働慣行の是正が求められている。ところで、今から50年以上前に、医学生・医師の側から研修制度や無給医についての改善要求運動が日本全国に拡がっていったことについてマスコミは触れていない。

文部科学省は2019年6月28日、大学病院で診療に従事しているにもかかわらず給与が支給されていない医師・歯科医師、いわゆる「無給医」の実態調査の結果を公表した。調査対象108病院所属の医師・歯科医師3万1801人のうち、7%にあたる2191人(50病院)が本来は給与を支払われるべき「無給医」と判明した。

合理的理由があるから無給で良いという例が3594人、精査が必要な例が1304人であった。今後精査により更に「無給医」は増える可能性が大きいという。「無給医」といっても内容は様々だが、文部科学省は今後、大学病院に対して適切な雇用・労務管理に取り組むように通知を発出した。この調査は2018年10月のNHKの報道がきっかけとなったとのことである。

さて、T市では2004年から始まった新医師臨床研修制度における前期研修2年間のうち、2年目の研修医の地域医療実習2カ月間を地域の開業医で引き受けている。研修医は病院に籍があり、身分は期間限定常勤医で給料は20万から30万円前後(一部国費にて助成)、各種保険類加入、労働時間・当直回数についての規定もあり、アルバイト厳禁である。世間的には大学病院における後期研修医やその他の医師についても適切に処遇されていると思われてきた。

昔も今も変わらず存在している無給医問題

無給医問題を歴史的に振り返ると、1964年に「無給医全国対策会議」が発足し、全国統一行動に発展。その後この運動は1970年「非常勤医員制度」として一応有給化した。

一方、1966年3月の医学部卒業生たちは全国的に「インターン制度(無給)廃止、研修制度の改善、副手(無給医)の廃止等を含めた医局制度の改革」を求め大学当局と話し合いを続けた。

決着はつかずに1967年4月の国家試験ボイコット決行となった。当時の日本の医学部・医科大学のうち、日本全国の医学生約8割が運動に参加。これが日本で初めてと言われる全国的な大きな抗議行動であった。その後、大学闘争、大学紛争へと形を変えていった。1968年、インターン制度は廃止となり、いくつかの改変を経た後に2004年、新臨床研修医制度(研修医は有給)として結実したものと思われていた。

しかし、今回の文科省の調査で明らかになったように現在も半世紀以上前と全く同様の理由で無給医の慣行が相変わらず存在している。大学病院の予算が足りない中では、無給医の存在により病院業務が維持されている事実もある。また、無給医がアルバイトに行くことによって地域医療が支えられているという一面もある。

それでも大学病院内で本人が労働者としての実態があるにもかかわらず給与が支払われておらず、労災事故にあっても何の保障も無いのは問題だ。アルバイトで疲弊して事故も起きている。また無給医が母親になった場合、雇用契約書が無いので、子供は認可保育所に入所出来ないそうだ。

更に市民にも影響が及んでくる。即ち医療事故が起きた時の責任の所在が曖昧であるからだ。無給医は医師賠償責任保険もかけていないので医療事故発生時の補償に困難を生じることもあり、当たり前の診療費を支払っている患者に多大な不利益をかけることになる。

制度の改善は国の義務であり喫緊の課題

ところで昨年から今年にかけての複数の大学医学部での不正入試問題の発覚、そして多くの大学病院で存在している無給医問題は、どちらも内部から問題提起されたのではない。何らかのきっかけで不正が外から指摘されている。これらは憲法、教育基本法、労働基準法などに違反していることは明らかだ。

教育現場では医学生に対して、単に医学的知識や技術の伝達のみならず、倫理観を含め幅広い人間性を涵養する責務がある。社会における医師の地位や信頼を考える時、不正に対する大学の責任は大きい。しかし国もまた大学病院における妥当な職員の定数や必要な予算確保について検討するべきである。正しく安全な医療の提供とそのための教育、そして先進的な研究が継続出来るように制度的な改善をはかることは国の国民に対する義務であり喫緊の課題である。

我々としては、自ら団結して無給医問題などの解決にあたろうとしている医師たちを応援するとともに無給医解消に必要な診療報酬の保障についても国に求めていくべきである。


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