再審査の充実のため「面談」が必要 支払基金の元職員が語る「面談」制度の重要性

再審査請求における「面談」での異議申請が4月から原則廃止されようとしています。しかし、大阪府保険医協会のアンケートでは存続を求める意見が多く出されています(『大阪保険医新聞』3月5日号で掲載)。この面談について支払基金の職員はどのように捉えていたのでしょうか。そこで支払基金の元職員である橋本巌氏に、審査の役割や面談に関する思いなどをお聞きしました。

「面談」廃止は患者にとってもマイナス

フリーライター
支払基金大阪支部 元職員
橋本 巌 氏

ーまずはじめに、支払基金の役割などについて教えてください。

診療とは「自由診療」と「保険診療」の大きく2つに分けることができます。このうち「自由診療」に関しては、医師法に反しない限り、基本的に制限はありません。逆に「保険診療」は、保険財源の範囲内で様々な制限がついている「制限診療」といえます。

「制限」のためには審査が必要であり、その審査を行っているのが、支払基金です。ただし、支払基金は審査をするために設立された組織ではありません。

支払基金は、医療保険制度を普及・定着させ、国民が「誰でも何時でもどこでも良い医療が受けられる」ことを保障するために設立された組織ですが、その力点は名前の通り「支払」に置かれています。

支払基金の設立以前は、審査と支払を一括して行うような組織はなく、支払の遅延が大きな問題となっていました。半年遅れはザラなうえに、診療報酬そのものが非常に低額で、医療内容には制限もかかるため、医療機関は保険診療ではやっていけませんでした。

しかし、戦後に新しい憲法ができ「国が文化的で最低限度の生活を保障し、公衆衛生についても責任を持つ」ことが要請されていくなかで、国民の健康に資するような医療保険制度を広めるため、支払いを迅速に行う機関が必要だという声が強くなっていきました。

その結果、「支払基金」という組織が構想され、1948年に設立されたのです。支払基金法第1条では「迅速適正な支払いをする。併せて審査をする」とあり、支払いが前面に出されていることがわかります。

ただし、実際のところは設立以降非常に厳しい審査が行われ、診療内容についても手順や範囲などがかなり厳しく決められていました。しかし後に、特に大阪で強力に行われた民主的な審査を求める医師の先生方の運動によって少しずつ改善していったのです。

医師の「裁量権」の尊重は患者の「受療権」の保障にも繋がる

-支払基金の審査について教えてください。

支払基金の審査には2つの側面があると思います。

1つ目は、「医療費削減」の側面です。基金、国保の年間の減点額は約1000億円にもなります。しかし審査とは、減点ありきであってはいけません。そこで重要なのが、2つ目の「医師の裁量権を尊重した公平な審査」という面です。

支払基金の審査とは公的な審査として、国民が良い医療を受ける権利である「受療権」と、それを保障するための「医師の裁量権」を尊重した審査でなければいけないと考えています。

ただし、審査をするなかで、医療機関の思いとぶつかる時も当然出てきます。そこで「再審査請求」と「面談」が重要になってくるのです。

直接の意見交換で双方が納得できる

原審査は書面で行われるため、患者の細かい状況まではわかりません。しかし「面談」による再審査では、書面では伝わりにくいことに関して、審査委員と担当医が直接意見を交わすことができ、双方が納得する結果を得ることができます。

再審査の結果、復活すれば患者のための診療方針を堂々と継続することができますし、もし医療機関側に誤りがあれば、誤解を正して後の診療に生かすことができます。そうして、医師の「裁量権」を尊重することは、患者の「受療権」の保障にも繋がるのです。

結果的に、面談による再審査の復活率は、書面による再審査と比較すると倍以上も高く、その差は歴然としていました。

ですから、「面談」を廃止するということは医療機関だけでなく、患者にとってもマイナスなのです。

権利として「再審査請求」の重視を
「面談」は医師の信念を訴える貴重な機会

-何故支払基金は面談を廃止しようとしているのでしょうか。

大きく3つの理由があると思います。

まず1つ目は「本部のガバナンス機能の強化」です。今までは各都道府県に支部と審査委員会が設置されていましたが、基金法の改正によって、各都道府県の支部の廃止が決まってしまいました。審査委員会も本部の下に設置するという規定になり、審査の独自性を無くそうとしています。

2つ目の理由は「再審査に本部が関与する体制への布石」です。今は各支部で行っている再審査についても、今後は本部がタッチする方針を出しています。そこで、審査基準の統一化を行い、各都道府県間の差異を解消しようとしているのです。

3つ目の理由が、「業務処理の標準化」です。基金は、都道府県支部の廃止後に全国で14カ所の審査事務センターに組織を集約しようとしています。本当は審査委員会も同様に集約しようとしていましたが、保険医協会など医療団体から大きな反発があり、現状は本部統制のもとで都道府県に引き続き設置することとなりました。しかし将来的には全国一カ所に集中させようとしています。そのために様々な業務処理を標準化しようとしているのです。

以上3つの要因を背景に、大阪独自の制度である「面談」がある意味で邪魔になり、今回のコロナ禍も理由にして廃止しようとしているのです。

なお、国保については全国単一組織ではないため大阪独自で面談制度を存続させることが可能なはずですが、国の進める基金改革に取り込まれたのだと思います。

公平な審査のためには互いに面談の権利を持つ必要がある

-そもそも「再審査」は、法律や各規定の上でどういった位置づけになっているのでしょうか。

実は支払基金と国保では、再審査の規定上の位置づけに違いがあります。

国保の場合は、国民健康保険施行規則第30条に「再度の考案」として「審査につき苦情があるものは再度の考案を求めることが出来る」と明記されています。

しかし、支払基金法では元々再審査に関する規定はなく、後に審査の一部としてカッコ書きで(再審査を含む)と付け足されただけで、十分に規定されているとは言えません。ここには単なる条文の有無に留まらない本質的な違いがあると考えています。

国保は、戦後の社会保障政策の一環として法律が出来てきたのに対して、支払基金は戦前の健康保険制度が持っていた「戦争遂行に資するため」という面と、労働者への「施し」としての意識が表れています。そのため再審査も制度としての位置づけが弱く、医師・国民の権利として保障されていないと考えています。

逆に言えば、大阪独自の「面談」は、法的な位置づけが弱いにも関わらず、過去の医師の先生方が運動で勝ち取っていった素晴らしい制度であるといえます。

廃止は合理的な個別性を認めた答弁に反する

-国の基金改革という方針のうえに、再審査の位置づけが弱いということは、面談の維持を求める運動に根拠はないのでしょうか。

そうではありません。2019年の5月に行われた保険局長による国会答弁では「各都道府県の審査委員会ごとに積み上げられた合理的な差異は尊重する」という趣旨の発言をしており、国会審議の場でも地域性が認められています。 

地域で積み上げたものを尊重するのであれば、大阪で半世紀以上続いてきた民主的な再審査制度である「面談」は、患者のためにも医療機関のためにもなる制度であり、残す必要があります。逆に「面談」の廃止は、国会答弁の趣旨に反するものだと思います。

大阪の面談制度こそ公平で当たり前の姿

また、「面談」は制度の上から言っても保障しなければ公平性を欠きます。

基金法の18条では「医療機関を呼び出す権限」に関する規定があり、審査委員会が必要があると判断した場合は厚生労働大臣の承認を得たうえで、強制力をもって医療機関を呼び出すことができます。また別に、任意の面談を求める規定もあります。

このように支払基金には呼び出す権利がある一方で、医療機関には面談を求める権利が法律上ありません。しかし、本来は医療機関の側にも面談を求める権利を認めなければ公平とはいえません。公平な審査のためには、両方が同じ権利を持つ必要があります。

大阪の面談は突飛な制度ではなく、むしろ大阪の制度が本来当たり前のものなのです。書面か面談のどちらを利用するかは各医療機関が自由に判断すべきですが、面談そのものが認められないことはおかしいことだということは改めて強調したいと思います。

査定は「医師の人格権の侵害」に繋がるものと認識を

-最後に保険医協会の会員に伝えたいことがあれば教えてください。

再審査請求をしない医療機関は実際のところ少なくないと思います。

再審査請求をしない理由は昔から「睨まれる」「やっても無駄」「少額で面倒」などが多く、恐らく今も変わっていないでしょう。しかし、減点・査定に関しては軽視せず、再審査請求を行うことを重視してもらえるように意識を変えていただきたいです。

「睨まれる」というのは杞憂であり、逆に全く再審査請求をしない方が不審に思われます。毎月減点が多いのに何も言ってこない医療機関は、言い方は悪いですが「いい加減ではないか」と思ってしまいます。また、申し立てが無いと安心して査定が行えます。

一方で、減点に対してきちんと再審査請求をする医療機関のレセプトは、職員も審査委員も慎重に審査しようという姿勢になります。再審査請求は審査側の意識を変えることに繋がるのです。

納得できない査定には必ず再審査請求を

減点・査定は医師の「裁量権の侵害」とよく言われますが、主治医が信念をもって行った行為を否定するわけですから、医師の「人格権の侵害」にもなると考えています。少しでも納得いかなければ再審査請求をすべきです。

医師の信念で行った医療の否定は、すなわち患者の受療権の侵害にも繋がります。だから再審査請求を全くしないのは患者のためにもなりません。再審査に対しては単に「労力」や「経済的」な面だけで捉えるのではなく、医師・患者の権利の一環と捉えてほしいです。そして、権利の侵害に対して、医師の信念を直接訴えることができる「面談」は絶対に残すべきものです。先生方にはぜひ声を上げていただきたいです。

-本日はありがとうございました。

「面談」を守るための署名にご協力下さい

面談による再審査請求は、『医師の裁量権を守る』ために極めて重要なものであり、その廃止は民主的な審査を求めてきた医師の運動の歴史に逆行するものです。そこで、大阪府保険医協会は現在「面談による再審査請求の継続を求める」院長署名に取り組んでいます。ぜひ署名にご協力ください。また、面談に関するご意見も引き続き募集しています。お問い合わせはTEL06-6568-7721で保険医協会までお寄せください。


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