二重行政論がもたらした医療空白【住民投票直前緊急インタビュー】

住民の健康を守るため「都構想反対」を決議

マツシマ眼科 院長
住之江区医師会 前会長
松嶋まつしま 三夫みつお

大阪市を廃止・分割する是非を問う、いわゆる「大阪都」構想の住民投票が11月1日に行われようとしています。しかし、大阪市廃止にあたっては「二重行政の解消」というメリットが喧伝される一方で、そのデメリットについては住民説明会でもほとんど説明されていません。そこで「二重行政論」のもとに廃止された「住吉市民病院」のあった住之江区で、マツシマ眼科を開業されている松嶋三夫氏にお話を伺いました。

―大阪市廃止の是非を問う住民投票が行われようとしています。その目的の一つが「二重行政の解消」ですが、その点についてお考えを教えて下さい。

松嶋 大阪市を廃止する目的として「二重行政の解消」があると、推進派の方々は主張します。この住之江区では、病院が近隣に2カ所あることが「二重行政の無駄である」と当時の橋下徹大阪市長が主張して、2018年に住吉市民病院が廃止されてしまいました。

しかし、府立と市立で病院が2つあることは決して無駄な二重ではありません。また、机上の地図を見るだけでは、単純に二つ病院があるだけに見えるかもしれませんが、実際は通院に要する時間も距離も、また果たしている役割も全く異なります。

特に住吉市民病院は地域の周産期医療を担っていただけでなく、福祉的ニーズの高いケースの患者を積極的に受け入れ、重責を果たしていました。そうした配慮なしに、住吉市民病院を廃止してしまった結果、多くの医療難民を生むこととなりました。

地域医師会には、常態化する交通渋滞で救急車が間に合わず、車中で出産した方や、重篤なアレルギーをお持ちの小児の患者さんが転居を余儀なくされたお話など、多くの悲惨な事例が届いています。

病院は社会的共通資本であり、その存在が中心となって地域が発展していきます。逆に言えばその病院を無計画に廃止することで地域は衰退していきます。実際にこの地域の子どもたちの数も減り続けています。しわ寄せは、その地域に暮らす患者さんや家族に重くのしかかっているのです。

府知事や大阪市長は、別の病院を誘致することで、医療空白を起こさないと約束しましたが、その約束も反故にされてしまいました。今回の住民投票に賛成する方々の多くは「二重行政の無駄をなくす」ことを理由に挙げられるのですが、その結果が何をもたらすのかよく考えていただきたいと思います。

特別区への格下げで財源難 住民サービスの低下は必至

―今回の住民投票で大阪市が廃止された場合の懸念点についてお考えを教えて下さい。

松嶋 大阪市の廃止が決まってしまった場合、もとの政令市には二度と戻ることはできません。そして、大阪市が廃止・分割され特別区になることで自治権が失われてしまううえに、大阪市が持っている税収と保有資産のほとんどが大阪府に没収されてしまいます。

同時に見過ごせないのが、「基準財政需要額に基づく不足額の国庫補助の受給資格喪失」という点です。

この基準財政需要額とは、簡単に言えば都市機能の維持費として必要な、国が国民に保障する最低限の生活レベルの金額の事です。自治体の税収が「需要額」に足りなければ、足りない分を国が地方交付税として払って補填します。地方自治体のほとんどはこの国庫補助を受けており、大阪府と大阪市も受給しています。

しかし、大阪市廃止後の特別区は、国庫補助の受給資格がないため受け取ることができません。更に大阪市廃止によって基準財政需要額が約200億円増大するという試算もあります。

東京都では、国庫補助を受けられないために困窮に陥っている区があります。この困窮区を助けるために、特別区の解散請求がすでに採択され、全区が基本自治体への移行を要求しています。東京以上に基幹産業を持たない大阪の特別区が財源難となるのは間違いありません。

「カジノの収益で補填」コロナ禍で計画が頓挫

当然ながら知事や市長は財政不足に陥ることをわかっています。そのため、吉村知事は新聞の取材に対して「カジノの売り上げを4特別区の不足する住民サービス費用に充てる」と表明しています。

反対意見の根強いカジノの収益を頼ることそのものにも問題がありますが、現在のコロナ禍でカジノ誘致の計画そのものが頓挫してしまっています。

大阪市は大幅な上乗せをしたうえで地下鉄の収益を当てにしていましたが、今年度は上乗せどころか赤字であり、今後もインバウンド需要減やテレワークの増加等により、増益を見込むことはできません。そうした財政的な不足によって市民サービスの低下は避けられなくなるのです。

そもそも良く考えて欲しいのが、大阪府市の経営状態です。大阪市が黒字なのに対して大阪府は大幅な赤字です。経済状況の悪い府が、経済状況の良い市を飲み込むということは一般のM&Aではありえません。財政的に考えてみても、大阪市を廃止することは、市民にとって何のメリットもありません。

医師として「大阪市廃止」を見過ごすことはできない

―保険医新聞の読者である会員の先生方に向けて伝えたいことはありますか

松嶋 私が本日申し上げた大阪市の廃止の問題点はあくまで一例にすぎませんが、こうした不都合な事実を、推進側は説明しようとしません。

5年前の住民説明会では、一応は公平に反対派の主張も資料が出されました。しかし、今回の説明会では反対派の主張は排除されてしまい、メリット一色の説明です。大阪市の広報誌も一方的な主張に基づく説明ばかりで、大阪市の参与からも不適切との指摘も受けています。

松嶋氏による都構想反対を訴えるポスター

そのうえ、松井大阪市長は「二重行政。今はない」という発言をしています。では一体何のために大阪市を廃止する必要があるのでしょうか。大阪府民・市民が事実を知らないまま、イメージばかりで大阪市が廃止されることは決して許されません。

自治体として最優先すべきは、住民の生活と安全を守る政策です。大阪市の廃止を優先し、市民の生活をないがしろにすることがあってはなりません。

松嶋氏から提供を受けた住之江区医師会の決議書

市民サービスの低下は地域住民の健康保持にも大きな影響を及ぼすため、医師として見逃すことはできない問題です。そのため先日、住之江区医師会では満場一致で都構想の反対決議が上がりました(左図)。また、私個人としても、反対の声を広げていくために、ポスターを作成し(上図)、大阪市を守るための運動を行っています。

新型コロナ禍から大阪が回復するには、5年を要するという見方がある中で、大阪市を廃止する「都」構想は大阪市民にとって不利益しかありません。廃止によって市民生活に重大な影響が及んだとしても、責任を取らないのは、住吉市民病院の件で明らかです。都制度は大阪市に隣接する市にも係るので、近隣の先生方と一丸となって「大阪市廃止に反対」の声を是非とも、広げていただきたいと思います。


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